フィリピンとアメリカの歴史的なつながりから、多くのフィリピン語(主にタガログ語など)が英語圏に取り入れられました。これらの言葉は料理から地理用語、日常表現まで多岐にわたり、英語の語彙を豊かにしています。
フィリピン文化を垣間見ることができるこれらの言葉の背景と使い方を紹介します。米国によるフィリピン領有(1898-1946年)の間に多くの言葉が交換され、その後も両国の文化交流によって新しい言葉が生まれ続けています。
フィリピンの伝統と文化に関連する言葉
Yo-yo ヨーヨー
ヨーヨーはフィリピン語で「戻ってくる」という意味。世界的に人気のおもちゃになる前はなんとフィリピンの伝統的な武器でした。
そもそもは石や硬い木でできており、縄に結びつけて狩りに使用されていたのです。1928年にフィリピン人のペドロ・フローレスがアメリカでヨーヨーを商業化し、その後世界中に広まりました。
Barong Tagalog バロン・タガログ
「バロン」とも呼ばれるフィリピンの伝統的シャツで、刺繍が施された薄手の半透明な生地が特徴です。
結婚式や公式行事など、フォーマルな場面で着用されます。パイナップルの葉から作られる「ピニャ」繊維やアバカ(マニラ麻)が材料として使われることが多いです。フィリピンでは国民服として位置づけられており、大統領も公式行事ではこれを着用します。
Despedida デスペディダ
スペイン語に由来するこの言葉は、別れの挨拶やお別れパーティーを意味します。フィリピンでは海外に出発する人のために盛大なデスペディダ・パーティーを開く習慣があり、この文化と共に英語圏にも広まりました。特に留学や海外就労が多いフィリピン社会では重要な文化的行事となっています。
Balikbayan バリクバヤン
タガログ語で「balik」(戻る)と「bayan」(町・国)を組み合わせた言葉で、海外に住むフィリピン人が故郷に帰国することを意味します。「バリックバヤン・ボックス」は海外在住フィリピン人が故郷の家族に送る特別な箱で、関税免除の特典があります。このプログラムは1970年代にマルコス政権下で始まり、海外フィリピン人労働者(OFW)との絆を強化するために導入されました。
Mabuhay マブハイ
タガログ語で「長生きを」という意味のこの言葉は、歓迎や祝福、乾杯の言葉として使われます。
フィリピン航空の名前にも使われており、英語圏でもフィリピンの歓迎の精神を表す言葉として認知されています。
料理用語
Adobo アドボ
酢、醤油、ニンニク、香辛料で肉(主に鶏肉や豚肉)を煮込んだフィリピンの代表的料理です。スペイン語起源ですが、現在では英語圏でもフィリピン独自の調理法として認知されています。各家庭によってレシピが異なり、家族の伝統として受け継がれていきます。2018年には「Word of Mouth」という料理本でフィリピンアドボが世界の代表的な料理として紹介されました。
Lechon レチョン
お祝いの席でよく提供される豚の丸焼きを指します。スペイン語由来ですが、フィリピン特有の料理として世界に知られるようになりました。特にセブ島のレチョンは世界的に有名で、パリッとした皮と柔らかい肉が特徴です。2009年、アンソニー・ボーデンが自身の番組「No Reservations」でセブのレチョンを「世界最高の豚肉料理」と絶賛し、注目を集めました。
Sinigang シニガン
タマリンドなどの酸味のある果物を使った酸味と香ばしさが特徴のフィリピンのスープまたはシチューです。魚、エビ、豚肉などのタンパク質と野菜を組み合わせて作られます。地域や家庭によって使う酸味の素(カミアス、グアバ、トマトなど)が異なります。フィリピン人にとって「母の味」を代表する料理の一つとされています。
Halo-halo ハロハロ
ミニストップのハロハロなどでお馴染み?のハロハロ。
これはタガログ語で「混ぜ混ぜ」を意味する言葉です。さまざまな甘いフルーツや豆、ゼリーなどに氷とミルクを加えたフィリピンのデザートを指します。英語圏でも人気が高まり、「多様な要素が混ざり合ったもの」を表す比喩としても使われることがあります。2013年にはアメリカの有名シェフ、アンソニー・ボーデンによって「素晴らしいもの」と称賛されました。
Pancit パンシット
中国からの影響を受けた麺料理の総称で、様々なバリエーションがあります。
「pancit」という言葉自体は福建語の「便食」(pian e sit)に由来するとされています。「Pancit Canton」(太麺の炒め物)や「Pancit Bihon」(細麺の炒め物)などが代表的です。長寿を象徴するとされ、誕生日に食べる習慣があります。
地理と場所に関連する言葉
Boondocks ブーンドックス
タガログ語の「bundok」(山)に由来し、都市から遠く離れた地方や辺鄙な場所を指します。アメリカによるフィリピン植民地化の時代に英語に導入されました。「boonies」と略されることもあります。アメリカ兵士たちがフィリピンでの任務中に使い始め、その後アメリカ本土に持ち帰ったとされています。
They built a vacation cabin in the boondocks to escape city life. 彼らは都会の生活から逃れるためにブーンドックスに休暇用のキャビンを建てました。
Barrio バリオ
スペイン語からきた言葉ですが、フィリピンでは「地区」や「近所」を意味し、英語圏、特にアメリカ南西部で使われるようになりました。フィリピンでは現在「バランガイ」(barangay)という言葉に置き換えられつつありますが、英語には「barrio」の形で残っています。
The old barrio has transformed into a trendy neighborhood. 古いバリオはおしゃれな地区に変わりました。
Estero エステロ
スペイン語由来ですがフィリピンでは特に都市部の運河や水路を指す言葉として使われます。マニラの都市計画でよく言及される言葉で、英語圏の都市計画や環境保護の文脈でも使われることがあります。
The cleanup of Manila’s esteros has improved urban flooding issues. マニラのエステロの清掃により都市部の洪水問題が改善されました。
スポーツと表現
Pacquiao Punch パッキャオ・パンチ
世界的に有名なフィリピン人ボクサー、マニー・パッキャオにちなんだ表現で、非常に強力なパンチを指します。ボクシング界を超えて、何か強力なインパクトを与えるものを比喩的に表現する際にも使われます。スポーツ用語としては「Pacman Punch」とも呼ばれることがあります(Pacmanはパッキャオのニックネーム)。
His argument hit the opposition with a Pacquiao punch. 彼の議論は反対派にパッキャオ・パンチを食らわせました。
Arnis アーニス
フィリピンの伝統的な武術で別名「エスクリマ」「カリ」とも呼ばれます。棒や短刀を使った格闘技で、近年は英語圏の格闘技用語としても認知度が高まっています。2009年にはフィリピンの国技に正式に指定されました。
The martial arts studio offers arnis classes twice a week. その武道スタジオでは週に2回アーニスのクラスを提供しています。
その他のフィリピン由来の言葉
Jeepney ジプニー
日本のテレビ番組などでフィリピンが映る時はお約束のように映るフィリピンの乗り物。ジプニーは第二次世界大戦後に残された米軍のジープを改造して作られたフィリピンの伝統的な公共交通機関です。
鮮やかな色と装飾が特徴で、英語圏ではフィリピンの象徴的な乗り物として知られています。近年はより環境に優しい「eジプニー」への移行が進んでいるようです。
Tourists love taking colorful jeepneys around Manila. 観光客はマニラ周辺でカラフルなジプニーに乗るのが大好きです。
Bahala Na バハラ・ナ
「神の意志に任せる」という意味のフレーズで、フィリピンの文化における運命受容の精神を表しています。
困難な状況に直面したときの心構えとして使われます。英語圏でもフィリピン文化を理解する上での重要な概念として言及されることがあります。
When faced with uncertainty, many Filipinos say “bahala na” and move forward. 不確実性に直面したとき、多くのフィリピン人は「バハラ・ナ」と言って前に進みます。
Pasalubong パサルボン
旅行から戻ってきた人が家族や友人に渡すお土産を指す言葉です。
フィリピン文化では非常に重要な習慣で、海外在住フィリピン人コミュニティでも大切にされています。英語圏でもこの概念を表す適切な単語がないため、そのままパサルボンと呼ばれることが増えています。
She carefully chose pasalubong for everyone back home. 彼女は故郷の皆のためにパサルボンを慎重に選びました。
Sari-sari サリサリ
タガログ語で「様々な」という意味で、フィリピンの小さな雑貨店「サリサリストア」を指す言葉としても知られています。これらの店舗はフィリピンの社会経済的風景において重要な役割を果たしており、英語圏のフィリピン研究でもよく言及されます。
The sari-sari store provided everything the neighborhood needed. サリサリストアは近所に必要なものをすべて提供していました。
Bayanihan バヤニハン
コミュニティの団結や相互扶助の精神を表すフィリピンの概念です。
伝統的には、村人が一緒に家を持ち上げて移動させる習慣を指していました。現在では広く社会的連帯や協力を意味し、英語圏でもこの概念を表現するために使われるようになっています。
After the typhoon, the bayanihan spirit helped rebuild the community. 台風の後、バヤニハンの精神がコミュニティの再建を助けました。
フィリピン英語特有の表現
Comfort Room コンフォートルーム
フィリピン英語でトイレを指す言葉です。略して「CR」と表記されることが多く、フィリピンでは公共施設や標識でよく見かけます。アメリカ植民地時代に導入され、現地に定着した表現です。
The sign pointing to the comfort room was written in both English and Filipino. コンフォートルームを指す標識は英語とフィリピン語の両方で書かれていました。
For a while しばらくの間
フィリピン英語では「少し待ってください」という意味で使われる表現です。店員が「For a while, sir/ma’am」と言った場合、少し待つように伝えているのです。標準英語とは少し異なる用法として知られています。
The clerk said “for a while” as he checked inventory. 店員は在庫を確認しながら「少々お待ちください」と言いました。
Open/Close the light 電気をつける/消す
標準英語では「turn on/off the light」ですが、フィリピン英語では「open/close the light」という表現が一般的です。これはタガログ語の「buksan/isara ang ilaw」の直訳的影響と考えられています。
She asked her son to open the light as it was getting dark. 彼女は暗くなってきたので、息子に電気をつけるよう頼みました。