イタリア系の名前は、世界で最も古く多様な命名システムの一つを持っています。
古代ローマ時代から続く伝統に、中世の社会構造や地域性が加わり、独特の姓が形成されました。
イタリアの姓は、職業、地理的出身地、父親の名前(父称)、個人の特徴など様々な要素に由来しており、領邦国家の時代が長かったことから地域によっても特徴的なパターンが見られます。
父称に由来する名前
Di Stefano ディ・ステファノ
ステファノの息子を意味し、古代ギリシャ語で「冠を戴く者」を意味するステファノスに由来します。
父親の名前から派生した典型的な父称姓で南イタリアで一般的です。キリスト教の最初の殉教者である聖ステファノへの敬意も反映しています。
ちなみに「Di」は「~の息子」を表すイタリア語の前置詞で、父系の血統を示す重要な言語的要素となっています。
アルフレード・ディ・ステファノ(アルゼンチン生まれのスペイン人サッカー選手、レアル・マドリードの伝説的選手。サッカー好きならディ・ステファノだけでこの選手が浮かぶ人がほとんどでしょう)
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(イタリアのテノール歌手、「黄金の声」と称された20世紀の偉大なオペラ歌手)
De Luca デ・ルカ
「ルカの息子」を意味し、ギリシャ語で「光をもたらす者」を意味するルカに由来します。
聖ルカへの敬意を表す名前から発展した姓です。中部・南部イタリアで特に一般的な父称姓です。
「De」は貴族的な響きを持つ前置詞として、社会的地位の向上とともに使用されることもありました。
Di Pietro ディ・ピエトロ
「ピエトロの息子」を意味し、ギリシャ語の「ペトロス(岩)」に由来する名前から生まれました。聖ペテロ(使徒ペテロ)への敬意を示す名前から派生した典型的な父称姓です。
カトリックの総本山、サン・ピエトロ大聖堂でもキリスト教の初代教皇とされる聖ペテロの「岩のような信仰」という象徴的意味が込められていて、強固さや信頼性を表す姓として認識されています。
イタリア全土で見られますが、特に中部・南部で頻繁に使用されます。
アントニオ・ディ・ピエトロ(イタリアの元検察官・政治家、「きれいな手作戦」で知られる汚職追及者)
D’Angelo ダンジェロ
「天使の息子」を意味し、守護天使や大天使ミカエルなどへの敬意を表します。
カトリックにおける天使信仰の重要性を反映した姓で、やはり南イタリアで一般的です。中世のキリスト教美術において天使が重要なモチーフだったことから、芸術家や職人の家系にも多く見られるようです。
アポストロフィと語頭の省略(D’は「Di」の短縮形)は、イタリア語の音韻変化です。
ニーノ・ダンジェロ(イタリアの歌手・作曲家、ナポリ民謡の現代的解釈で知られる)
ベベリー・ダンジェロ(イタリア系アメリカ人の女優、「ヘアスプレー」など多数の作品に出演)
Paoli パオリ
「パオロの息子たち」を意味し、ラテン語の「パウルス(小さい)」に由来します。聖パウロへの敬意を示す名前から派生し特にコルシカ島で一般的です。
複数形の語尾「-i」は、一族全体や家系の分枝を表す古いイタリア語の命名慣習を反映したものです。
パスクアーレ・パオリ(コルシカの革命家・政治家、コルシカ共和国の創設者)
職業に由来する名前
Ferrari フェラーリ
「鍛冶屋」を意味し、ラテン語の「ferrum(鉄)」に由来します。
中世イタリアの村落社会における鍛冶職人の重要性を反映しています。北イタリア、特にエミリア=ロマーニャ州で一般的な姓で鍛冶技術の高度化とともに社会的地位も向上しました。
エンツォ・フェラーリ(イタリアの実業家、フェラーリ創業者)
Medici メディチ
メディチ家で有名なメディチ。医師を意味しラテン語の「medicus」に由来します。元々は医療従事者の家系を示していましたが、後にフィレンツェの有力銀行家・政治家一族として歴史に名を残しました。実際ローマ法王までを輩出したメディチ家は今で言う薬剤師の家系でした。
ロレンツォ・デ・メディチ(イタリアのルネサンス期の政治家、「豪華王」の異名を持つフィレンツェの実質的統治者)
カテリーナ・デ・メディチ(イタリア出身のフランス王妃、フランス王アンリ2世の妻で文化パトロン)

Marino マリーノ
「船乗り」や「海の人」を意味し、ラテン語の「marinus(海の)」に由来します。
地中海沿岸の海洋貿易が盛んだった地域で特に一般的です。中世イタリア諸都市の海上商業ネットワークにおいて、船乗りは単なる労働者ではなく冒険者・商人・外交官の役割も担っていました。
アマルフィ、ピサ、ジェノヴァ、ヴェネツィアなどの海洋共和国の繁栄と密接に関連した職業姓です。
ジャンバッティスタ・マリーノ(イタリアのバロック詩人、マリニズムの創始者)
ダン・マリーノ(イタリア系アメリカ人のNFLクォーターバック、マイアミ・ドルフィンズの伝説的選手)
Fontana フォンターナ
「泉」または「泉の管理人」を意味し、ラテン語の「fons(源泉)」に由来します。公共の水源の管理や噴水の建設に関わった職業を示し、特に北イタリアで一般的です。
ルネサンス期には装飾的な噴水の設計・建設に関わる芸術家的側面も持ちました。
ルチオ・フォンターナ(イタリアの芸術家、空間主義の創始者、キャンバスにスラッシュを入れる作品で有名)
ニコラ・フォンターナ(16世紀イタリアの数学者、三次方程式の解法発見者、通称タルタリア)
Fabbri ファッブリ
「鍛冶屋」または「職人」を意味し、ラテン語の「faber(職人)」に由来します。Ferrariと同様に金属加工職人を指しますが、特にボローニャやトスカーナ地方で一般的です。
より広義の「職人」という意味も含むため金属加工以外の手工業従事者にも使用されました。
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地理的出身地に由来する名前
Romano ロマーノ
ローマ出身を意味しイタリア統一以前の都市間移動を反映しています。
特に南イタリアで一般的で、古代ローマの栄光への文化的つながりを示す姓としても解釈できます。中世においては「ローマ人」という呼称は単なる地理的出身を超えて文化的・宗教的アイデンティティを表現する場合もありました。
セルジオ・ロマーノ(イタリアの外交官・歴史家、中東問題の専門家)
ジュリオ・ロマーノ(イタリアのルネサンス画家・建築家、ラファエロの弟子でマントヴァの宮殿のデザイナー)
Napolitano ナポリターノ
「ナポリ出身」を意味し、南イタリアの主要都市ナポリからの移住者を示します。
特に北イタリアや他の地域に移住したナポリ人に与えられた姓です。ナポリ王国の政治的・文化的影響力を物語る姓です。
ジョルジョ・ナポリターノ(イタリアの政治家、2006年から2015年までイタリア共和国大統領を務めた)
Calabrese カラブレーゼ
「カラブリア出身」を意味し、イタリア半島最南端の地域カラブリアからの移住者を示します。北部や中部イタリアに移住した南イタリア人に一般的な姓です。カラブリア地方の山がちな地形と農業中心の経済構造が、住民の他地域への移住を促進したことを反映しています。19世紀後半から20世紀初頭のイタリア系移民の大きな波において、カラブリア出身者は重要な構成要素を占めました。
Lombardi ロンバルディ
「ロンバルディア出身」を意味し、北イタリアの富裕地域ロンバルディアからの移住者を示します。
中世には「ロンバルド人」としてイタリア各地に移住し、特に金融業で知られました。ロンバルディア地方の商業的発達と銀行業の先進性が、住民の経済活動範囲拡大を促進しました。
中国の商の国が日本語の商人という言葉に生きているように、「Lombard」という語は中世ヨーロッパ全体で金融業者を指す一般名詞としても使われ、この地域出身者の経済的影響力を示すものです。
ヴィンス・ロンバルディ(イタリア系アメリカ人のNFLコーチ、グリーンベイ・パッカーズの名監督)
Siciliano シチリアーノ
「シチリア出身」を意味し、シチリア島からの移住者を示します。
シチリア人の大規模な移住の歴史を反映しており、イタリア本土や海外のイタリア系コミュニティで一般的に見られます。シチリア島の複雑な歴史(アラブ、ノルマン、スペイン統治)と独特の文化的アイデンティティが、この姓に特別な意味を与えています。
余談ですが19-20世紀の大移民時代において、シチリア出身者は南北アメリカへの移住者の大きな割合を占めました。
個人の特徴に由来する名前
Rossi ロッシ
「赤い」を意味し、赤毛や赤ら顔の人に与えられた姓です。
イタリアで最も一般的な姓の一つで、特に中部・北部イタリアで広く見られます。色彩に基づく身体的特徴の識別は、中世ヨーロッパにおける一般的な命名慣習でした。
ヴァレンティーノ・ロッシ(イタリアのオートバイレーサー、モトGPの伝説的チャンピオン)
パオロ・ロッシ(イタリアのサッカー選手、1982年ワールドカップで優勝に貢献)
Bianchi ビアンキ
「白い」を意味し、白髪や色白の人に与えられた姓です。
イタリア北部、特にロンバルディア地方で一般的で、古くから継承されてきた姓の一つです。日本だとジャンプの漫画、リボーンのイタリア人女性キャラクターでもいたはず。
エドアルド・ビアンキ(イタリアの自転車メーカー、ビアンキ社の創業者)
Ricci リッチ
「巻き毛の」を意味し、髪質の特徴に基づいて与えられた姓です。
特にトスカーナ地方で一般的で、中世における視覚的な個人識別の重要性を示しています。巻き毛は地中海地域では比較的珍しい特徴だったため、識別手段として有効でした。
マテオ・リッチ(イタリアのイエズス会宣教師、中国名は利瑪竇、東西文化交流の先駆者)
クリスティーナ・リッチ(イタリア系アメリカ人の女優、「アダムス・ファミリー」などに出演)
Magro マグロ
「痩せた」を意味し、細身の体型の人に与えられた姓です。特に中部・南部イタリアで見られ、体型に基づく社会的識別の例です。「痩せた」を意味し、細身の体型の人に与えられた姓です。
特に中部・南部イタリアで見られ、体型に基づく社会的識別の例です。英語の「Lean」やスペイン語の「Delgado」に相当します。
Piccolo ピッコロ
「小さい」を意味し、背の低い人や小柄な人に与えられた姓です。
特に南イタリア、ナポリ周辺で一般的です。小さいという形容詞は愛称的なニュアンスも含み、親しみやすさを表現する場合もありました。
英語ではないですが中国語で、名前の最初に小とつけることで同じような愛称のニュアンスにする文化がありますが、ユーラシアの東西で似たようなニュアンスがあるのは面白いですね。
ブライアン・ピッコロ(イタリア系アメリカ人のNFLプレーヤー、その生涯は映画「ブライアンの歌」として描かれた)
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自然や動物に由来する名前
Colombo コロンボ
「鳩」を意味し、鳩を飼育していた人や温和な性格の人に与えられた姓です。北イタリア、特にロンバルディア地方で一般的で、平和と聖霊の象徴としての鳩のキリスト教的象徴性も反映しています。
中世において鳩は通信手段としても重要で、鳩の饲育は実用的技術でもありました。
美術が好きな人ならば、キリスト教美術で聖霊を表現する際に用いられる鳩のイメージなどもありますよね。
クリストファー・コロンブス(イタリア語名クリストフォロ・コロンボ、イタリア生まれの探検家)

Lupo ルーポ
「狼」を意味し、狩猟者や勇敢な性格の人、または狼が多い地域に住んでいた人に与えられた姓です。
特にシチリアやカラブリアなど南イタリアで一般的で、自然との密接な関係を反映しています。
狼はローマの発祥の伝説のロムルスとレムスにおいても育て親となる重要な象徴的動物です。
Leone レオーネ
ライオンを意味し、勇敢さや力強さを持つ人、または紋章や看板にライオンを使用していた人に与えられた姓です。
シチリアなど南イタリアで一般的です。ライオンは王権と威厳の象徴として、ヨーロッパの紋章学で最も重要な動物の一つでした。
ヴェネツィア共和国の象徴である聖マルコの獅子など、イタリア各地の都市国家でもライオンは権威の象徴として使用されていました。
セルジオ・レオーネ(イタリアの映画監督、「荒野の用心棒」などのスパゲティ・ウェスタンの創始者)
ジョヴァンニ・レオーネ(イタリアの政治家・法律家、イタリア共和国元大統領)
Fiore フィオーレ
「花」を意味し、花を栽培していた人や美しさを象徴する人に与えられた姓です。
フィレンツェ(花の都)との関連も示唆され、特にトスカーナ地方で一般的です。
中世において花卉栽培は薬草学や香料製造と密接に関連し、実用性と美的価値を兼ね備えた職業でした。
ロベルト・フィオーレ(イタリアの政治活動家、極右政党の指導者)
Gallo ガッロ
「雄鶏」を意味し、鶏を飼育していた人や早起きの習慣を持つ人、または自信に満ちた性格の人に与えられた姓です。
南イタリアで一般的で、農業社会における家禽の重要性を反映しています。

歴史的・文化的背景を持つ名前
Esposito エスポジト
捨て子を意味し、歴史的に孤児院や教会の養子に与えられた姓です。
由来を考えると意外かもしれませんが、ナポリを中心とした南イタリアではかなり一般的な姓の一つで、「esposito(置かれた)」という単語に由来します。
Gentile ジェンティーレ
「優しい」または「貴族的な」を意味し、礼儀正しい振る舞いや高貴な出自を持つ人に与えられた姓です。
中世イタリアの騎士道や宮廷文化の影響を反映しており、特に中部イタリアで一般的です。
ジョヴァンニ・ジェンティーレ(イタリアの哲学者、イデアリズムの代表的思想家、ファシズム期の教育相)
クラウディオ・ジェンティーレ(イタリアのサッカー選手、ASローマの伝説的ミッドフィールダー)
Grasso グラッソ
「太った」を意味し、体格の良い人や裕福な人(食べ物に恵まれていた人)を示す姓です。
シチリア、南イタリアで一般的です。英語の「Fat」に相当します。
ピエトロ・グラッソ(イタリアの政治家・法律家、イタリア上院議長を務めた)
Conti コンティ
「伯爵」または「伯爵の使用人」を意味し、貴族との関連や封建制度における役割を示す姓です。
中部イタリア、具体的にトスカーナやウンブリア地方で一般的で、イタリアの複雑な封建的階層構造を反映しています。
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