イギリスに多い名前の由来まとめ
イングランドには古代から様々な名前とその由来が存在します。
英語自体がドイツ語などのゲルマン語に大量にフランス語の語彙が入るなどかなりミックスされた言語ですが、名前も同じです。
ノルマン人による征服であるノルマンコンクエスト、在来のケルト文化の影響、キリスト教の伝統、職業や個人の特徴に基づく命名など、豊かな命名文化が育まれてきました。
今回はその名前の由来を、その著名人とともに見ていきましょう。
職業に由来する姓
Smith (スミス)
古英語で鍛冶屋や金属労働者を意味し、イングランドで最も一般的な姓の一つです。 地域に縛られない職業であったため、この姓は全国的に広まり、特定の地域性が薄いのが特徴です。 様々な文化圏にも同様の意味を持つ姓があり、ドイツの「Schmidt」、フランスの「Lefèvre」、イタリアの「Ferrari」なども同じ職業に由来します。
ザラジン・スミス(イギリスの女性作家、『ホワイト・ティース』で国際的に知られる) ジョン・スミス(イギリスの政治家、労働党の元党首として影響力を持った)
Taylor (テイラー)
古フランス語の「tailleur」(裁断する人)に由来し、衣服の仕立て屋を意味する職業姓です。 ノルマン征服後の12世紀頃からイングランドで広まり、特に中世の都市部で多く見られました。 仕立て産業の発展と共に普及し、現在もイングランドで10番目に多い姓として定着しています。
エリザベス・テイラー(イギリス出身のハリウッド女優、紫色の目と8回の結婚で知られる)
ジェームズ・テイラー(アメリカのシンガーソングライター、フォークとロックの融合で人気)
Walker (ウォーカー)
中世英語で「fullers」(織物を踏んで加工する職人)を意味し、羊毛産業が盛んだった地域に由来します。 イングランド北部、特にヨークシャーやランカシャーなど羊毛業が発達した地域で多く見られる姓です。 「歩く人」という直訳からは想像しにくいですが、織物を足で踏む作業から名付けられました。
アリス・ウォーカー(アメリカの作家・活動家、『カラーパープル』でピュリッツァー賞受賞)
ジョニー・ウォーカー(有名スコッチウイスキーブランドの名前、ブレンデッドウイスキーの代名詞)
父親の名に由来する姓(家系姓)
Jones (ジョーンズ)
「ジョンの息子」を意味し、ウェールズ系の姓としてイングランドでも非常に一般的です。 元々はウェールズで発展した姓で、「ap John」(ジョンの子)がアングロ化されて「Jones」となりました。 ジョンという名前はヘブライ語で「神は恵み深い」を意味し、キリスト教の影響で広まりました。
トム・ジョーンズ(ウェールズ出身の歌手、パワフルな声と情熱的なステージで有名)
キャサリン・ゼタ・ジョーンズ(ウェールズ出身の女優、ハリウッドで活躍するA級スター)
Johnson (ジョンソン)
「ジョンの息子」を意味し、アングロサクソン系の命名パターンに基づく姓です。 イングランド北部や中部で特に多く、スコットランドでも一般的に見られます。 同じ意味を持つJones姓と比べると、ジョンソンはより英国的な姓として発展しました。
ボリス・ジョンソン(イギリスの元首相、特徴的な金髪とブレグジット推進で知られる)
サミュエル・ジョンソン(18世紀の文学者、最初の本格的な英語辞典の編纂者)
Williams (ウィリアムズ)
「ウィリアムの息子」を意味し、ノルマン征服後にイングランドで広まった姓です。 ウィリアムという名前はゲルマン語の「意志」と「兜」に由来し、「意志の強い守護者」を意味します。 特にウェールズでは最も一般的な姓の一つで、イングランドとの国境地域でも多く見られます。
ロビー・ウィリアムズ(イギリスのポップスター、ボーイバンド「テイク・ザット」の元メンバー)
セレナ・ウィリアムズ(アメリカのテニス選手、グランドスラム23勝の偉大なチャンピオン)
Evans (エヴァンズ)
「エヴァンの息子」を意味し、エヴァンはヨハネ(John)のウェールズ語形です。 ウェールズ起源の姓で、特にイングランド西部やウェールズとの国境地域に多く分布しています。 ウェールズ人の名前は、伝統的に「ap」(〜の息子)という形で父親の名前を取りましたが、16-17世紀に英語化される過程でこの形になりました。
クリス・エヴァンズ(アメリカの俳優、マーベル映画の「キャプテン・アメリカ」役で有名) リー・エヴァンズ(イギリスのコメディアン、身体的コメディと社会風刺で人気)
イングランドの男性名
George (ジョージ)
ギリシャ語で「農夫」を意味し、英国の守護聖人である聖ジョージにちなんだ名前です。 複数の英国王の名前としても知られ、現在のジョージ王子(ウィリアム王子の息子)も同名です。 竜退治の伝説で知られる聖ジョージは、十字軍の時代からイングランドの象徴的存在となりました。
ジョージ・オーウェル(イギリスの作家、『1984年』『動物農場』などのディストピア小説で知られる)
ジョージ・マイケル(イギリスの歌手、デュオ「ワム!」のメンバーから国際的ソロアーティストへ)
Oliver (オリバー)
ラテン語で「オリーブの木」を意味し、平和と豊穣の象徴として古くから親しまれてきました。 17世紀の清教徒革命の指導者オリバー・クロムウェルや、ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』の影響も大きいでしょう。 21世紀に入り再び人気が高まり、現在はイングランドで最も人気のある男児名の一つです。
オリバー・ツイスト(チャールズ・ディケンズの小説の主人公、孤児院で育った少年の物語)
オリバー・ストーン(アメリカの映画監督、社会派作品で知られる『プラトーン』などの監督)
Harry (ハリー)
「ヘンリー」の愛称形で、ゲルマン語で「家の支配者」を意味します。 英国王室のハリー王子(ヘンリー王子)や、J.K.ローリングの小説『ハリー・ポッター』シリーズの主人公の影響で人気が高まりました。 中世から使われている伝統的な英国名で、「Harold」(ハロルド)の愛称としても使われることがあります。
ハリー・スタイルズ(イギリスの歌手、ボーイバンド「ワン・ダイレクション」の元メンバー)
ハリー・ケイン(イングランドのサッカー選手、ナショナルチームのキャプテンを務める)
Charlie (チャーリー)
「チャールズ」の愛称形で、ゲルマン語で「自由人」または「男らしい」を意味します。 イギリスではチャールズ皇太子(現国王)の影響もあり、20世紀を通じて人気の名前でした。 親しみやすい響きから、正式名ではなく命名される場合も増えています。
チャーリー・チャップリン(イギリス出身の喜劇俳優・映画監督、無声映画時代の巨匠)
チャーリー・シーン(アメリカの俳優、テレビドラマ『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』などで知られる)
そして進化論のチャールズ・ダーウィンも。

Jacob (ジェイコブ)
ヘブライ語で「かかとをつかむ者」を意味し、聖書の族長ヤコブに由来する名前です。 伝統的なユダヤ・キリスト教の名前として長い歴史を持ち、21世紀に入って再び人気が高まりました。 「Jake」(ジェイク)や「Jay」(ジェイ)という愛称が一般的に使われます。
ジェイコブ・リース=モグ(イギリスの政治家、伝統的な保守主義者として知られる)
ジェイク・ギレンホール(アメリカの俳優、『ブロークバック・マウンテン』などの名作に出演)
イングランドの女性名
Sophia (ソフィア)
ギリシャ語で「知恵」を意味し、初期キリスト教時代から使われてきた名前です。 ビクトリア朝時代に再び人気が高まり、現代でも国際的に愛される名前となっています。 様々な文化圏で使われ、「Sophie」(ソフィー)という形も特にイギリスでは一般的です。
ソフィア・ローレン(イタリアの女優、ハリウッドでも活躍した国際的な映画スター)
ソフィー・ターナー(イギリスの女優、『ゲーム・オブ・スローンズ』のサンサ・スターク役で有名)
Amelia (アメリア)
ゲルマン語に由来し、「勤勉」や「仕事」を意味する古い名前です。 18世紀以降イギリスで人気を博し、特に女性飛行士アメリア・イアハートの活躍後さらに広まりました。 「Amy」(エイミー)や「Mia」(ミア)という愛称も一般的に使われます。
アメリア・イアハート(アメリカの女性飛行士、太平洋横断飛行に挑戦した先駆者)
アメリア・ワーナー(イギリスの女優・歌手、映画『エリザベス』などに出演)
Lily (リリー)
百合の花に由来する名前で、純潔と無垢の象徴として古くから親しまれてきました。 19世紀のビクトリア朝時代に花の名前を女児につける流行があり、その時代から人気の名前です。 シンプルで優雅な響きから、21世紀になって再び人気が高まっています。
リリー・ジェームズ(イギリスの女優、『シンデレラ』の実写版主演やダウントン・アビーに出演)
リリー・アレン(イギリスの歌手、ポップミュージックとソーシャルメディアでの影響力で知られる)
Olivia (オリビア)
ラテン語の「オリーブ」に由来し、平和の象徴として知られています。 16世紀にシェイクスピアが戯曲『十二夜』で創作した名前とされ、その後英語圏で広まりました。 21世紀に入り特に人気が高まり、現在はイングランドで最も人気のある女児名の一つです。
オリビア・コールマン(イギリスの女優、『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞を受賞)
オリビア・ワイルド(アメリカの女優・監督、アイルランド系の血を引く『ハウス』などに出演した女優)
Emily (エミリー)
ラテン語に由来し、「熱心な」「勤勉な」という意味を持つ伝統的な名前です。 イギリス文学ではブロンテ姉妹のエミリー・ブロンテなど著名な作家と結びついています。 19世紀から20世紀にかけて特に人気があり、現代でも古典的で優雅な名前として選ばれています。
エミリー・ブロンテ(イギリスの作家、ゴシック小説『嵐が丘』の著者)
エミリー・ブラント(イギリスの女優、『プラダを着た悪魔』や『メリー・ポピンズ リターンズ』に出演)
その他のイングランドの姓
Brown (ブラウン)
茶色の髪や暗い肌の色を持つ人を表す記述的な姓で、古英語の「brun」に由来します。 アングロサクソン時代からノルマン征服後まで使われ続けた古い姓の一つです。 イングランド全土に広く分布し、特定の地域性が少ない一般的な姓となっています。
ゴードン・ブラウン(イギリスの元首相、労働党から2007年から2010年まで務めた)
ジェームズ・ブラウン(アメリカのソウルシンガー、「ソウルの帝王」と呼ばれる伝説的存在)
Davies (デイヴィーズ)
「デイヴィッドの息子」を意味するウェールズ起源の姓で、「ap Dafydd」から発展しました。 ウェールズで特に多く見られますが、イングランド西部の国境地域にも広く分布しています。 「Davis」と並んでウェールズ系の代表的な姓であり、「David」(愛される者)に由来します。
レイ・デイヴィーズ(イギリスのミュージシャン、ロックバンド「ザ・キンクス」の創設者)
Wilson (ウィルソン)
「ウィルの息子」を意味し、「ウィル」は「ウィリアム」の愛称です。 ノルマン征服後にウィリアムという名前が広まり、その後この姓も増えていきました。 イングランド北部やスコットランド南部のボーダー地域に特に多く見られます。
ハロルド・ウィルソン(イギリスの元首相、労働党から2度にわたり首相を務めた)
Roberts (ロバーツ)
「ロバートの息子」を意味する姓で、特にウェールズやイングランド西部に多く見られます。 ロバートはゲルマン語で「輝かしい名声」を意味し、ノルマン征服後に人気を博した名前です。 「Robertson」(スコットランド系)と比較して、「Roberts」はより英語・ウェールズ的な姓と言えます。
ジュリア・ロバーツ(アメリカの女優、『プリティ・ウーマン』などのハリウッド映画で主演)
現代で人気の英国名
Ava (エイヴァ)
ラテン語で「鳥のような」または「生命」を意味すると言われる短く美しい名前です。 20世紀半ばには女優エヴァ・ガードナーの影響で人気がありましたが、21世紀に入って再びトレンドとなっています。 シンプルでコスモポリタンな響きが現代の親に好まれ、国際的に通用する名前として選ばれています。
エヴァ・ガードナー(アメリカの女優、1940-50年代のハリウッド黄金期を代表するスター)
エイヴァ・デュヴァーネイ(アメリカの映画監督・プロデューサー、社会派作品で知られる)
Thomas (トーマス)
アラム語で「双子」を意味し、新約聖書の「疑い深いトマス」の使徒に由来します。 中世からイングランドで広く使われてきた伝統的な名前で、「Tom」という親しみやすい愛称も人気です。 姓としてもウェールズやイングランド南西部に多く、「トーマスの息子」を意味する姓も多数派生しています。
トム・ヒドルストン(イギリスの俳優、マーベル映画の「ロキ」役で国際的に知られる)
トム・ハーディ(イギリスの俳優、『マッドマックス』や『ヴェノム』などのアクション映画に出演)
Jack (ジャック)
元々は「ジョン」の愛称でしたが、現在は独立した名前として広く使われています。 イギリスの民話やおとぎ話(ジャックと豆の木など)に頻繁に登場し、親しみやすいイメージがあります。 短くて発音しやすい名前として人気があり、21世紀初頭にはイギリスで最も人気のある男児名でした。
ジャック・ニコルソン(アメリカの俳優、『カッコーの巣の上で』などで知られるハリウッドの伝説) ジャック・グリーリッシュ(イングランドのサッカー選手、マンチェスター・シティの攻撃的ミッドフィルダー)