IT・メディア・コミュニケーション
バズる
「バズる」は英語の「buzz」が語源です。buzzは本来「ハチがブンブン飛ぶ音」を表す擬音語でしたが、転じて「噂話」「騒ぎ」という意味になりました。
インターネット時代になると「話題になる」「急速に広まる」という意味で使われるようなり、日本では動詞化して「バズる」となりました。マーケティング業界では「バズマーケティング」という手法も確立されており、意図的にバズを起こすことが重要な戦略となっています。
ディスる
「ディスる」は英語の「disrespect(軽蔑する、馬鹿にする)」の略語「dis」から来ています。
アメリカのヒップホップ文化で使われ始め、相手を侮辱したり批判したりすることを指します。
日本では2000年代頃から若者言葉として定着しました。ヒップホップの「ディスソング」(相手を批判する楽曲)が語源の背景にあり、音楽業界では今でも重要な表現手法として使われています。
こちら歌詞の中で個人名を出しまくり凄いディスっている、エミネムのクラシック、My Name Is。
ハッシュタグ
英語の「hash(#記号)」と「tag(札、ラベル)」を組み合わせた言葉です。SNSで話題を分類・検索しやすくするために使われる「#〇〇」の形式を指します。
Twitterが普及とともに日本でも一般的になりました。もともと「#」記号は電話機のプッシュボタンで使われていましたが、プログラミング言語でも特別な意味を持つ記号として使用されていました。現在では Instagram、Facebook、TikTok など主要なSNSプラットフォームで標準的な機能となっており、トレンド分析やマーケティング戦略の重要な要素となっています。
インフルエンサー
英語の「influence(影響を与える)」に「-er(〜する人)」がついた「influencer」が語源です。SNSなどで多くのフォロワーを持ち、他人の購買行動や意見に影響を与える人を指します。
この概念は2000年代後半のソーシャルメディアの普及とともに生まれ、現在では重要なマーケティング職業として確立されています。マイクロインフルエンサー(1万人程度のフォロワー)からメガインフルエンサー(100万人以上)まで、影響力の規模によって細分化されており、企業のマーケティング戦略における重要なパートナーとなっています。
アルゴリズム
変わった響きの英語だと思いますが、それもそのはず、こちらはアラビア語の数学者「アル・フワーリズミー(Al-Khwarizmi)」の名前が語源です。
9世紀のペルシャの数学者で、代数学の父とも呼ばれています。彼の著作がヨーロッパに伝わる際、「Algoritmi」と表記され、後に「algorithm」となりました。
現在では、コンピュータプログラムの処理手順や、SNSのタイムライン表示順序を決める仕組みなど、私たちの日常生活に深く関わる概念として使われています。
政治・社会
キャスティングボート
英語の「casting vote」が語源で、本来は「可否同数の際の決定票」を意味します。画像のようにボートをキャスティングする訳ではありません。
日本では「キャスティングボート」として、選挙や政治で「勢力均衡を左右する重要な立場」を指すようになりました。この概念は議会制民主主義において非常に重要で、特に連立政権や議会の勢力が拮抗している状況で、小政党が大きな影響力を持つ現象を表現しています。
日本の政治史においても、公明党や社民党などがキャスティングボートを握った場面があります。

ロビイスト
英語の「lobbyist」が語源です。「lobby(ロビー、玄関ホール)」で政治家に働きかけを行う人という意味から来ています。
19世紀のアメリカで、ホテルのロビーで政治家に陳情する人々がいたことに由来します。現在では、特定の業界や団体の利益を代表して政治家や政府関係者に働きかけを行う専門職として確立されています。
アメリカでは法的に登録制度があり透明性が求められている一方、日本では制度化されていないため、その活動実態は不明確な部分が多いとされています。
アジェンダ
ラテン語の「agendum(なすべきこと)」の複数形「agenda」が語源です。会議の議題や政治的課題を意味します。ビジネスでも「検討すべき課題」という意味で広く使われています。
国際政治では「国際アジェンダ」として、地球規模で取り組むべき課題(気候変動、貧困撲滅、平和構築など)を指すこともあります。また、「アジェンダ設定」は政治学や社会学の重要な概念で、メディアが何を重要な問題として扱うかが世論形成に大きな影響を与えるという理論の基礎となっています。
マニフェスト
ラテン語の「manifestus(明らかな)」から英語の「manifest」になり、「宣言書」「声明」を意味します。政党の政策綱領や公約を表す言葉として日本でも定着しました。
歴史的には、1848年にマルクスとエンゲルスが発表した「共産党宣言(The Communist Manifesto)」が最も有名な例です。日本では2003年の総選挙から本格的に使われ始め、従来の「公約」よりも具体的で実現可能性を重視した政策集として位置づけられています。
ガバナンス
ラテン語の「gubernare(舵を取る)」が語源で、英語の「governance」となりました。
統治や管理という意味で、企業統治(コーポレートガバナンス)や地方自治体の運営など、幅広い分野で使われています。近年では「良い統治(グッドガバナンス)」として、透明性、説明責任、参加性を重視した統治のあり方が国際的に注目されています。
文学・芸術・エンターテインメント
ハードボイルド
英語の「hard-boiled」が語源で、本来は「固ゆで卵」を意味します。1920年代のアメリカで、感情を表に出さない硬派な探偵小説のスタイルを「固ゆで卵のように硬い」と表現したことから、文学ジャンル名となりました。
代表的な作家にはレイモンド・チャンドラー、ダシール・ハメットなどがおり、映画界では映画ノワールというジャンルに発展しました。日本では1970年代から80年代にかけて、大藪春彦や北方謙三などがハードボイルド小説の人気を牽引し、現在でも根強いファンを持つジャンルとなっています。
ゾンビ
ハイチ共和国で信仰されているブードゥー教の言葉「zonmi」または「zombi」が語源です。魔術師によって蘇らせられた死者を指していました。映画やゲームを通じて世界中に広まりました。
1968年のジョージ・A・ロメロ監督の映画「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」が現代的なゾンビ映画の原型を作り、その後ホラー映画の定番ジャンルとなりました。日本でも「バイオハザード」シリーズなどのゲームを通じて広く親しまれ、現在では感染拡大をテーマにしたパンデミック映画の要素としても頻繁に使われています。
サスペンス
ラテン語の「suspendere(吊るす、宙に浮かせる)」から英語の「suspense」になりました。「宙吊り状態」から「不安や緊張で宙ぶらりんな心理状態」を表すようになり、推理小説や映画のジャンル名となりました。
映画界ではサスペンスの神様と呼ばれるアルフレッド・ヒッチコック監督が確立した演出技法が有名で、観客の心理を巧みに操る手法として現在でも多くの作品で使われています。
ファンタジー
ギリシャ語の「phantasia(想像力)」がラテン語を経て英語の「fantasy」になりました。「幻想」「空想」を意味し、現実とは異なる世界を描いた創作ジャンルを指します。
現代ファンタジーの父とされるJ.R.R.トールキンの「指輪物語」が1954年に発表されて以降、文学・映画・ゲームの主要ジャンルとして発展しました。
パロディ
ギリシャ語の「paroidia」が語源で、「para(横に)」+「ode(歌)」の組み合わせです。既存の作品を模倣して、滑稽さや批判を込めた作品を作ることを指します。古代ギリシャ時代から存在する表現手法で、文学、音楽、映画、テレビ番組など幅広い分野で使われています。
コメディ
ギリシャ語の「komodia」が語源です。「komos(酒宴での歌舞)」+「ode(歌)」から成り、古代ギリシャの喜劇に由来します。現在は幅広く「喜劇」「お笑い」を指します。古代ギリシャではアリストファネスが政治風刺コメディの傑作を数多く残し、現代でも政治コメディの原型となっています。映画界では、チャップリンやバスター・キートンのサイレント映画から、現代のスタンダップコメディまで、多様な形態に発展しています。日本では漫才、コント、落語などの伝統的な笑いの文化と融合し、独自のコメディ文化を形成しています。
スポーツ・レジャー
ビリ
これは英語由来ではありません。ビリの語源は諸説ありますが、有力なのは、お尻が転訛して「ひり」となり、さらに「びり」になったというもので、由来はお尻です。応用?で「ビリッケツ」などという言葉もありますが、これだと「おしりおしり」ですね。
競争で最下位になることを表す言葉として江戸時代から使われており、現在でも運動会や試験の成績などで広く使われています。関西弁では「ベベ」とも言い、これも同じく最下位を意味する言葉です。
グランピング
「glamorous(魅力的な)」と「camping(キャンプ)」を組み合わせた造語です。テントやコテージなどの宿泊設備が整った、豪華で快適なキャンプスタイルを指します。2000年代にイギリスで生まれた言葉です。
従来のキャンプの不便さを解消しながら、自然の中での体験を楽しめるという新しいレジャースタイルとして、世界中で人気が高まっています。日本でも2010年代後半から急速に普及し、星野リゾートなどの大手リゾート企業も参入し、家族連れやキャンプ初心者にも人気の高いアウトドア体験となっています。
バーベキュー
スペイン語の「barbacoa」またはタイノ族(カリブ海先住民)の言葉「barabicu」が語源とされています。肉や魚を木の枠の上で焼く調理法を指していました。現在は屋外での焼肉パーティー全般を表します。
アメリカ南部では地域ごとに異なるバーベキュー文化が発達し、ソースの種類や調理法に独特の特徴があります。
日本では1960年代頃から家庭に普及し始め、現在では河川敷や公園、キャンプ場での定番レジャーとなっています。最近では手ぶらで楽しめるバーベキュー施設も増え、より手軽に楽しめるようになってきましたね。
サーフィン
英語の「surf(砕け波)」から来ています。ハワイ語では「he’e nalu(波乗り)」と呼ばれていましたが、西洋人がハワイを訪れた際に英語で表現し、世界に広まりました。
古代ハワイでは王族のスポーツとして神聖視され、優れたサーファーは社会的地位が高かったとされています。現在では世界中の海岸でスポーツとして楽しまれ、プロサーフィンの世界大会も開催されています。
ボウリング
英語の「bowl(球を転がす)」に「-ing」がついた言葉です。中世ヨーロッパの宗教的儀式で、棒を倒すことで悪魔払いをしたことが起源とされています。現代のテンピンボウリングは19世紀のアメリカで確立され、日本には1952年に伝来しました。
1970年代には空前のボウリングブームが起こり、全国に約3,700カ所のボウリング場が設立されました。現在でも家族連れや友人同士で楽しめるレジャースポーツとして親しまれ、プロボウリングの世界大会も開催されています。
マラソン
古代ギリシャの「マラトンの戦い」に由来します。紀元前490年、マラトンからアテネまで勝利の知らせを伝えるために走った兵士の故事から、長距離走の名称となりました。近代オリンピックの第1回大会(1896年アテネ)で正式種目となり、現在の42.195kmという距離は1908年のロンドンオリンピックで確定されました。
日本では東京マラソン、大阪マラソンなどの市民マラソンが人気を博し、健康ブームとともに参加者が急増しています。完走を目指す市民ランナーから、記録を狙うエリートランナーまで、幅広い層に愛されるスポーツとなっています。
ファッション・美容
ビキニ
1946年に発明された際、その衝撃的なデザインが同年に行われた「ビキニ環礁での原爆実験」の衝撃に例えられたことから名付けられました。
マーシャル諸島のビキニ環礁が語源です。フランスの自動車エンジニアであったルイ・レアールが発明し、当初はあまりにも露出度が高いため、モデルを見つけるのに苦労したと言われています。
1960年代のウルスラ・アンドレスの映画「007 ドクター・ノオ」での着用シーンが話題となり、世界的に普及しました。現在では水着の定番スタイルとして定着し、デザインも多様化しています。
デニム
フランスの「ニーム(Nimes)」という都市名が語源です。「de Nimes(ニーム産の)」が「denim」に変化しました。この地域で作られた丈夫な綿織物がジーンズの素材となりました。
アメリカでは1873年にリーバイ・ストラウスとジェイコブ・デイビスがリベット付きのデニムパンツの特許を取得し、これが現代ジーンズの原型となりました。当初は鉱夫や農作業者の作業着でしたが、20世紀後半にはカジュアルファッションの代表的アイテムとなり、現在では世界中で愛用されています。
カーディガン
19世紀のクリミア戦争で活躍したイギリスの軍人「カーディガン伯爵(7th Earl of Cardigan)」の名前が語源です。彼が着用していた前開きのセーターが「カーディガン」と呼ばれるようになりました。
カーディガン伯爵は軍服の下に着用する実用的な防寒着として考案し、その後民間にも普及しました。
現在では男女問わず着用される定番ニットアイテムとして定着し、ビジネスシーンからカジュアルまで幅広いスタイルで活用されています。日本では学校の制服としても広く採用されています。
タンクトップ
「tank(水槽)」+「top(上衣)」の組み合わせです。1920年代、水泳用のプール(tank)で着用されていた袖なしシャツから名付けられました。当初は男性の下着として着用されていましたが、1970年代以降はカジュアルウェアとして市民権を得るようになりました。
ブラジャー
フランス語の「brassiere(腕を保護するもの)」が語源です。
なんと元々は鎧の一部を指していましたが、後に女性用下着の名称となりました。
ちなみに現代的なブラジャーは1889年にフランスの エルミニ・カドルが発明し、1913年にアメリカのメアリー・フェルプス・ジェイコブが特許を取得したようです。
スニーカー
英語の「sneak(忍び足で歩く)」から来ており、音を立てずに歩けるゴム底の靴を指していました。1917年にアメリカのケッズ社が最初の現代的なスニーカーを発売し、その後コンバース、ナイキ、アディダスなどが市場を拡大しました。
日本では1960年代から本格的に普及し、現在ではスポーツシューズとしてだけでなく、ファッションアイテムとしても高い人気を誇っています。
食べ物・飲み物
サンドイッチ
18世紀のイギリス貴族「サンドウィッチ伯爵(4th Earl of Sandwich)」の名前が語源です。彼がトランプゲーム中に手を汚さずに食べられるよう、パンに肉を挟んで食べたことから名付けられました。
この第4代サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギューは、24時間ぶっ続けでカードゲームをプレイするほどのギャンブル好きで知られていました。
現在では世界中で愛される軽食の代表格となり、具材や調理法の多様化により、無数のバリエーションが生まれています。日本では喫茶店文化とともに独自の発展を遂げ、フルーツサンドやカツサンドなど、独特のスタイルも生まれています。
こちらはパン好きなら必見。まさかの現在のサンドイッチ伯爵たち本人が登場する動画です。
ハンバーガー
ドイツの都市「ハンブルク(Hamburg)」が語源です。ハンブルク風のステーキ「ハンバーグステーキ」がアメリカに伝わり、パンに挟んで「ハンバーガー」となりました。
19世紀にドイツ系移民がアメリカに持ち込んだハンブルク風の生肉料理が、アメリカで焼いて食べるスタイルに変化し、20世紀初頭にパンに挟んで食べる現在の形になりました。マクドナルド、バーガーキングなどのファストフードチェーンの世界展開により、現在では世界中で愛される代表的なアメリカ料理となっています。日本では1970年代から本格的に普及し、独自のグルメバーガー文化も発達しています。
ビスケット
ラテン語の「bis(二度)」+「coctus(焼く)」から「biscoctus(二度焼き)」となり、フランス語の「biscuit」を経て英語になりました。
保存のために二度焼きしたパンが起源です。中世ヨーロッパでは船乗りの保存食として重要な役割を果たし、大航海時代の海洋探検を支えました。現在では世界各国で様々な種類のビスケットが作られ、日本でも「ビスケット」「クッキー」「サブレ」など、微妙な違いで区別されています。製法や材料により食感や味わいが大きく異なり、お茶の時間の定番お菓子として親しまれています。
マヨネーズ
スペインのメノルカ島の港町「マオン(Mahon)」が語源とする説が有力です。
1756年にフランス軍がこの地を占領した際、現地の卵と油を使ったソースを「マオンのソース」と呼んだことから「マヨネーズ」になったとされています。日本には1925年にキユーピーが国産初のマヨネーズを発売し、現在では世界第3位の消費量を誇る「マヨネーズ大国」となっています。ポテトサラダ、お好み焼き、たこ焼きなど、日本独自の使い方も数多く生まれています。
コーヒー
アラビア語の「qahwah(覚醒させる飲み物)」がトルコ語の「kahve」を経て、ヨーロッパ各言語に伝わりました。エチオピアの「カファ地方」が語源という説もあります。
コーヒーの発見には、エチオピアの羊飼いが山羊がコーヒーの実を食べて元気になるのを見たという伝説があります。
15世紀にイエメンで栽培が始まり、16世紀にはオスマン帝国全域に、17世紀にはヨーロッパに伝来しました。日本には江戸時代に長崎に伝来し、明治時代から本格的に普及しました。現在では世界で最も愛される嗜好飲料の一つとなり、サードウェーブコーヒーなどの新たなトレンドも生まれています。
音楽・楽器
ピアノ
イタリア語の「pianoforte(弱く強く)」の略です。従来の楽器と違い、鍵盤を押す強さで音の強弱を表現できることから名付けられました。1700年頃にイタリアのバルトロメオ・クリストフォリが発明し、当初は「gravicembalo col piano e forte(弱い音と強い音が出るハープシコード)」と呼ばれていました。
古典派音楽の発展とともに楽器として完成度が高まり、現在では世界中で最も親しまれている楽器の一つとなっています。日本では明治時代に伝来し、音楽教育の普及とともに家庭にも広がりました。現在では幼児教育の定番習い事としても人気が高く、多くの家庭で愛用されています。
身近な言葉の語源解説(詳細版)
楽器
ギター
古代ペルシャ語の「tar(弦)」にアラビア語の「qithara」が組み合わさり、スペイン語の「guitarra」を経て英語の「guitar」になりました。この語源の変遷は、楽器そのものの歴史的な伝播ルートを物語っています。現在の形のギターは16世紀頃のスペインで確立され、その後世界各地に伝播しました。
興味深いことに、「tar」という言葉は現在でもペルシャ系の弦楽器の名前に残っており、シタール(sitar)もこの語源を共有しています。ギターの形状や演奏方法は地域によって独自の発展を遂げ、フラメンコギター、クラシックギター、エレキギターなど多様な種類が生まれました。日本には戦国時代にポルトガル人宣教師によって伝えられ、当時は「ビオラ」や「ギタラ」と呼ばれていました。
ドラム
古代ゲルマン語の「trum(音を出す)」が語源とされています。太鼓の「ドンドン」という音を表現した擬音語的な言葉から発展したもので、言語学的には音象徴(オノマトペ)の典型例です。この語源は音そのものを言葉にした原始的で直感的な命名法を示しています。
ドラムという楽器自体は人類最古の楽器の一つとされ、動物の皮を張った太鼓は世界各地で独立して発明されました。英語の「drum」以外にも、日本語の「太鼓」、中国語の「鼓」など、多くの言語で打楽器を表す言葉は音に由来しています。現代のドラムセットは19世紀末のアメリカで発達し、ジャズ、ロック、ポップスなど様々な音楽ジャンルの基盤となっています。
サックス
19世紀ベルギーの楽器製作者「アドルフ・サックス(Adolphe Sax、1814-1894)」の名前が語源です。彼が1840年代に発明した管楽器が「サクソフォン(saxophone)」と呼ばれ、略して「サックス」となりました。これは発明者の名前がそのまま楽器名になった珍しい例です。
アドルフ・サックスは木管楽器と金管楽器の特徴を組み合わせた新しい楽器を開発し、1846年にフランスで特許を取得しました。サクソフォンは軍楽隊用として考案されましたが、後にジャズ音楽で重要な役割を果たすようになりました。サックス氏は生涯で多くの管楽器を発明しており、現在でも彼の名前を冠した楽器が演奏され続けています。興味深いことに、彼は生前に何度も事故に遭いながらも91歳まで長生きしました。
建築・住居
ベランダ
ポルトガル語またはスペイン語の「varanda」が語源とされています。さらに遡ると、インドの「varanda(屋根付きの廊下)」がヨーロッパの植民地支配を通じて伝わったという説が有力です。この語源は、建築様式の国際的な伝播と文化交流の歴史を反映しています。
インドの伝統的な建築では、強い日差しや雨季の雨から室内を守るため、屋根付きの廊下や張り出し部分が発達しました。ポルトガル人がインドに進出した際にこの建築様式を取り入れ、後にヨーロッパや南米の植民地に広まりました。日本では明治時代以降に西洋建築とともに導入され、現在では集合住宅の標準的な設備となっています。地域によって「バルコニー」と使い分けられることもありますが、一般的にベランダは屋根があるもの、バルコニーは屋根がないものを指すことが多いです。
テラス
ラテン語の「terra(土地、大地)」から来ています。元々は「土を盛った平地」や「段々畑」を意味し、現在は「屋外の平らな場所」や「屋上庭園」を指すようになりました。この語源は人間が自然の地形を人工的に改変してきた歴史を物語っています。
古代ローマ時代から、斜面に段々状の平地を造成する技術が発達し、農業や都市建設に活用されました。現代の「テラス」概念は、19世紀ヨーロッパの都市計画で発達した連続住宅(テラスハウス)や、庭園設計の影響を受けています。日本では戦後の住宅建設で「テラスハウス」として紹介され、その後カフェやレストランの「テラス席」として親しまれるようになりました。地中海沿岸の「テラス農業」も同じ語源を持ち、急峻な斜面を有効活用する伝統的な農法として現在も続いています。
乗り物・交通
タクシー
「taximeter(料金計算器)」と「cab(辻馬車)」を組み合わせた「taxicab」の略語です。19世紀後半のロンドンで、従来の辻馬車に自動料金計算器を取り付けた馬車が登場し、「タクシメーター・キャブ」と呼ばれたのが始まりです。この名称は技術革新と交通サービスの近代化を象徴しています。
「tax」はラテン語の「tangere(触れる)」に由来し、「課税する」という意味から「料金を徴収する」という意味で使われました。初期のタクシメーターは機械式で、車輪の回転に連動して料金を計算する仕組みでした。自動車の普及とともに馬車から自動車に移行し、現在の「タクシー」という呼び方が世界中に広まりました。
バス
ラテン語の「omnibus(すべての人のために)」の略語です。19世紀前半のフランスで「voiture omnibus(オムニビュス馬車)」と呼ばれた大型乗り合い馬車が語源で、「誰でも乗れる公共交通機関」という意味を込めて命名されました。この語源は公共交通の民主的な理念を表しています。
1826年にフランスのナント市で世界初の定期路線バスサービスが開始され、その後ヨーロッパ各都市に広まりました。自動車技術の発達により馬車から自動車に移行し、現在の「バス」という短縮形が定着しました。興味深いことに、コンピューター用語の「バス」(データ伝送路)も同じ語源で、「情報を運ぶ共通の経路」という意味で命名されています。
日本では明治時代に「乗合自動車」として導入され、戦後の高度経済成長期に路線網が急速に拡大しました。現在では路線バス、高速バス、コミュニティバスなど多様な形態で運行されています。
エレベーター
ラテン語の「elevare(持ち上げる、高く上げる)」から英語の「elevator」になりました。「e-(外に)」+「levare(持ち上げる)」の組み合わせで、文字通り「人や物を上に運ぶ装置」という意味から名付けられました。この語源は機械の機能を直接的に表現した論理的な命名です。
現代的なエレベーターは1853年にアメリカのエリシャ・オーティスが安全装置付きエレベーターを発明したことから始まります。
それ以前にも荷物用の昇降装置は存在しましたが、安全性の問題から人が乗ることは危険でした。オーティスの発明により高層建築が実用的になり、現代都市の発展に大きく貢献しました。
日本では1890年に浅草の凌雲閣(十二階)に初めて設置され、「昇降機」という訳語も使われましたが、現在は「エレベーター」が一般的です。関連語として「escalator(エスカレーター)」も同じラテン語語源を持っています。
動物・自然
カンガルー
オーストラリア先住民グーグ・イミディル族の言葉「gangurru」が語源です。1770年にキャプテン・クックがオーストラリア東海岸を探検した際、現地の人々から教わった言葉が「kangaroo」として英語に取り入れられました。「飛び跳ねるもの」や「大きなもの」という意味があったとされています。
長い間、「現地の人が『分からない』と答えたのを動物名と勘違いした」という俗説が広まっていましたが、現在では言語学的研究により上記の語源が正しいとされています。カンガルーは有袋類の代表的な動物で、オーストラリア大陸とその周辺にのみ生息しています。
先住民アボリジニの人々にとって重要な食料源であり、ドリームタイム(創世神話)にも登場する文化的に重要な動物です。
ゴリラ
古代カルタゴの探検家ハンノンの航海記(紀元前5-6世紀頃)に登場する「gorillai」という言葉が語源です。ハンノンが西アフリカ(現在のシエラレオネ周辺)で遭遇した毛深い人間のような生物を指して使った言葉で、現地の人々がそう呼んでいた動物名を記録したものと考えられています。
この古代の記録は長い間忘れ去られていましたが、1847年にアメリカの宣教師トーマス・サベージがアフリカで類人猿を発見した際、学名「Gorilla gorilla」として復活させました。ゴリラは人間に最も近い類人猿の一つで、DNA的に人間と約98%同じ遺伝子を持っています。野生のゴリラはアフリカ中央部の熱帯雨林に生息し、草食性で平和的な性格です。
映画「キングコング」などの影響で凶暴なイメージを持たれがちですが、実際は家族を大切にする優しい動物として知られています。
その他・日常語
アルバイト
ドイツ語の「arbeit(労働、仕事)」が語源です。明治時代に日本に留学したドイツ人学生や、ドイツに留学した日本人学生の間で使われ始めました。当初は「学業の傍らで行う仕事」という意味で、正規の職業と区別するために使われた学生用語でした。
ドイツ語の「Arbeit」は「労働」全般を指す言葉ですが、日本では学生の副業という限定的な意味で導入されました。大正時代から昭和初期にかけて大学生の間で広まり、戦後の高度経済成長期に一般社会でも使われるようになりました。現在では年齢や職業に関係なく、パートタイムの仕事全般を指す言葉として定着しています。
興味深いことに、ドイツ語圏では学生の副業を「Nebenjob(副業)」や「Studentenjob(学生仕事)」と呼び、「Arbeit」だけでは通じません。日本独自の意味変化を遂げた外来語の典型例といえます。
リュックサック
ドイツ語の「Rucksack」が語源で、「Rücken(背中)」+「Sack(袋)」の組み合わせです。文字通り「背中に背負う袋」という意味で、機能をそのまま表現した実用的な命名です。ドイツやオーストリアの登山文化から生まれた言葉が、世界中に広まりました。
19世紀のヨーロッパで登山やハイキングが趣味として普及する中で、両手を自由に使える背負い式の鞄が発達しました。日本には明治時代後期に登山用具として紹介され、戦時中は軍用装備としても使用されました。戦後は学生鞄として普及し、現在では通学、通勤、アウトドア活動など幅広い用途で使われています。
英語では「backpack」と呼ばれることが多く、アメリカでは「knapsack」という類似語もあります。近年は機能性とファッション性を両立したデザインが人気で、ビジネス用途のリュックサックも多数開発されています。
ランドセル
オランダ語の「ransel(背嚢、ナップザック)」が語源です。江戸時代末期に幕府が軍制改革を行った際、オランダ式軍事訓練を導入し、兵士が背負う装備品として「ransel」が日本に伝わりました。後に学習院で通学用鞄として採用され、小学生のカバンとして定着しました。
明治20年(1887年)に当時の皇太子(後の大正天皇)の学習院入学祝いとして、時の総理大臣伊藤博文が特注の革製ランドセルを献上したことが、現在の形のランドセルの始まりとされています。当初は上流階級の子弟のみが使用していましたが、戦後の民主化とともに一般に普及しました。
日本独自の発展を遂げ、6年間使い続ける丈夫さ、安全性への配慮、色やデザインの多様化などが特徴です。近年は海外でも「RANDOSERU」として知られるようになり、日本文化の象徴の一つとなっています。
ホチキス
アメリカの「E.H.ホチキス社(E.H. Hotchkiss Company)」の社名が語源です。同社が19世紀後半に製造していたステープラー(ホッチキス)が日本に輸入された際、社名がそのまま商品名として定着しました。これは商標の一般名詞化(genericide)の典型例です。
E.H.ホチキス社は1866年にコネチカット州で設立され、初期は銃器製造を行っていましたが、後に事務用品に転換しました。日本には明治時代後期に輸入され、当初は「紙綴器」「紙留器」などと呼ばれていましたが、「ホチキス」という呼び方が定着しました。英語圏では「stapler」が一般的で、「Hotchkiss」は通じません。日本では他にも「クリップ」「セロテープ」など、商標が一般名詞化した事務用品が多数あります。現在のホチキスは針を使わないタイプや、環境に配慮した製品など、技術革新が続いています。
セロハンテープ
「cellophane(セロファン)」+「tape(テープ)」の組み合わせです。セロファンは「cellulose(セルロース)」+「-phane(透明な)」から作られた合成語で、透明なフィルム状の材質を表しています。この透明フィルムに粘着剤を塗布した透明な粘着テープが「セロハンテープ」と呼ばれるようになりました。
セロファンは1908年にスイスの化学者ジャック・ブランデンベルガーが発明した世界初の透明プラスチックフィルムです。1930年代にアメリカで粘着剤を塗布した透明テープが開発され、日本には戦後に導入されました。
「セロハンテープ」という名称は日本独自のもので、英語では「Scotch tape」(スコッチテープ)や「clear tape」と呼ばれます。